先月のダボス会議で、「ビジネスは社会問題の解決をリードすべきか」と題したセッションがありました。
以前お伝えしたように、アメリカでは、社会便益を追及する新たな企業形態「ベネフィット・コーポレーション」が生まれ、多くの企業が株式会社から組織変更しています。この背景には、企業の存在意義を問う声、企業はどこまで環境・社会問題に責任を負うべきかという議論が増えていることがあります。ダボス会議のセッションでは、これに対する興味深い意見が提示されていたので、ご紹介したいと思います。
モデレータであるロックフェラー財団の戦略担当副社長ジア・カーン氏は、次のように述べ、セッションを開始しました。「30~40年前は投資家利益を生むことが企業の主目的であり、社会問題の解決は政府や市民社会の責任だった。しかし、次第に企業の社会的責任が問われるようになり、近年、企業が社会問題に取り組むようになった。では、政府や市民社会やNGOだけでは十分に解決できない大きな問題に我々が直面しているという現状を踏まえて、企業はただ取り組むだけでなく、この課題をリードしていくべきかを問いたい。」
この問いに対し、ネスレのCEOポール・ブルケ氏は、「明らかにNOだ」と断言。「企業はリードするのではなく、その一部であるべきだ」とし、一方で「投資家利益の最大化に対してもNOだ。経済活動の基本に立ち返り、投資家だけでなくすべての利害関係者に価値を生むべきだ」と答えています。
オランダ化学メーカーDSMのCEOフェイケ・シべスマ氏は、自社のCO2排出量規制支援を例に挙げ、「企業は法の制定や規制はできないが、政府の規制を支援し、後押しすることはできる」と主張。さらに、「社会問題に取り組むことは企業の責任・義務であり、秘密裏に儲ける手段ではない」と、CSRを単なるマーケティング行為だと穿った見方をする人々を牽制しました。
国連開発計画のヘレン・クラーク氏は、「企業は(国連のように)持続可能な開発の達成に向けて突き進むことはできないだろうが、社会の一員として大きく貢献できる。近年、熱帯雨林の破壊に加担するサプライヤーからパーム油を購入しないという行動を起こすことで、企業は熱帯雨林保全に大きな貢献をした。大豆や牛肉でも同じ効果が期待できる」と既に効果が出ていることを主張。また、「まだ行動を起こしていない企業に良い影響を与えることも可能」であり、一方で「消費者は社会のためになる商品を求めるようになっている」と対策しないことのリスクにも言及しました。
一方、国際非営利団体CIVICUS事務総長のダニー・スリスカンダラヤ氏は、「依然多くの企業が株主利益の最大化を追求している。近年、グーグルやアマゾン、スターバックスが課税逃れをしていたことが発覚した。どうしたら、企業のこうした考え方を抜本的に変えられるのかが問題だ」と厳しい意見を展開しました。
企業がリードできないとしたら誰がリードすべきかという問いに対して、クラーク氏は政府と市民社会と企業が垣根を超えて共同でリードすべきとし、スリスカンダラヤ氏は市民が行動を起こすことで企業や政府に圧力をかけられると、市民の力を強調。シベスマ氏は、企業が貢献し行動を起こすこと自体がリーダーシップだとしています。
環境・社会問題は世界全体の大きな問題ですから、企業や政府やNGOや市民が互いに責任を押し付け合っている限り、抜本的な変化は起こらないでしょう。企業人も政治家も、所属や肩書き以前にひとりの人間なのですから、個々人が環境・社会問題をリードしようという意識を持ち、所属や肩書きを活用して行動を起こせば、変化は起こるのではないでしょうか。
(レスポンスアビリティ社メールマガジン「サステナブルCSRレター」No.214 (2015/02/05発行)既出)
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