営利企業でありながら社会的な便益も追及する、いわゆる”社会的企業”が世界的に増えています。アメリカではこうした情勢を反映し、いち早く法整備が行われています。
株式会社や有限責任会社(LLC)などに代わる新たな企業形態として、「ベネフィット・コーポレーション」という法人格を認める法案が次々可決され、多くの企業が組織変更を行っています。
アメリカでは州ごとに企業形態が定められていますが、現在ベネフィット・コーポレーションの設立・組織変更を認めている州は27に上り、さらに14州が法案可決に向けて動いています。
負担が増えても人気の理由とは
ベネフィット・コーポレーションとは、社会や環境に有益な影響をもたらすことを目的とした株式会社のことです。
細かな定義や規制は州ごとに異なりますが、株主利益の最大化が最優先されがちな通常の株式会社と異なり、株主だけでなく、従業員や地域社会、環境への影響を考慮した経営判断が求められます。
また、年に一度、財務報告書の他に、社会や環境への功績を評価した”ベネフィット・レポート(社会利益報告書)”を公表することが義務付けられています。
非営利団体と異なり、税務上は株式会社とみなされ、何の税優遇制度もありませんが、その代わり、短期利益重視の投資家から企業を法的に守ることができます。これが人気の理由です。
もちろん、株主利益が軽視されるわけではありません。他の利害関係者の利益と同等に扱われるということです。
特に、敵対的買収を仕掛けられた際に大きな効果を発揮します。
アメリカでは、経営者側の企業防衛策より買収側の株主利益が優先されがちですが、ベネフィット・コーポレーションは株主とそれ以外の利益が同等であることが法的に認められているので、こうした脅威から逃れることができます。
株主利益が最優先されないことで、広範な資金調達が難しくなる側面もありますが、むしろ短期利益に惑わされず、企業の長期的な価値を認める優良な投資家を誘引できます。
さらに、環境・社会対策に真剣に取り組んでいることの証明になるため、サステナビリティをマーケティングに利用する、いわゆる”グリーン・ウォッシャー”との差別化を図ることが可能です。
既にベネフィット・コーポレーションとして登記した企業は千社を超えています。
今のところ、公開企業の登録はないようですが、アウトドア・アパレルのパタゴニアや製粉メーカーのキング・アーサー・フラワーなど多くの有名な非公開企業が、株式会社からベネフィット・コーポレーションに組織変更しています。
今のところ、公開企業の登録はないようですが、アウトドア・アパレルのパタゴニアや製粉メーカーのキング・アーサー・フラワーなど多くの有名な非公開企業が、株式会社からベネフィット・コーポレーションに組織変更しています。
また、ベビーフードメーカーのプラム・オーガニックは、昨年、公開企業である大手スープメーカーのキャンベルスープに買収されましたが、その後もベネフィット・コーポレーションのステータスを守り続けています。
公開企業は、短期利益主義をどう牽制するのか
本来、企業は株主利益の最大化だけを目的としているわけではないでしょうから、敢えて新たな法人格を作る必要はないはずです。
しかし、そうせざるを得ないほど、短期利益主義が蔓延しているということなのでしょう。
公開企業の株主に、ベネフィット・コーポレーションへの組織変更を認めさせるのは難しいことです。そのため、大手公開企業は他の方法で短期利益主義を牽制しています。
2009年、当時サステナビリティのリーディングカンパニーと称されていたウォルマートが、長期戦略に集中するため月次売上報告を廃止し、多くの小売企業がこれに続きました。
欧州のユニリーバも、翌10年から四半期財務報告の簡素化を実践しています。同社CEOのポール・ポールマン氏は、今春マッキンゼー・クォータリー誌で次のように語っています。
「ビジネスは社会に仕えるために存在する。小規模農業の減少、食糧安全保障、森林破壊といった問題に取り組むには10年単位の長期計画が必要だが、やらなければいずれ我々のような食品企業は破綻する。これらが機能していなければ食品ビジネスは成り立たないのだから、こうした問題を黙って見ているわけには行かない。ゆえに、我々は長期的なビジネスモデルを考えなければならないのだ。」
「これを実現するため、四半期ごとの詳細な財務報告書を廃止した。発表後、株価は8%落ちたが、それまで上下動を繰り返していた株価が次第に安定するようになり、投資家と長期的に最適な利益を生むための戦略的行動についてより成熟した対話ができるようになった。」
近年、多くの企業が自主的にサステナビリティ報告書を発表していますが、これも企業による短期利益主義への防衛策のひとつといえるでしょう。
人間の欲がある限り、短期利益主義はなくならないかもしれませんが、企業の行動次第で状況は改善できるのではないでしょうか。
ベネフィット・コーポレーションをはじめ、米企業の持続可能性に関する新たな試みとそれを支える法整備について、日経BizGateでご紹介していますので、合わせてご覧頂けますと幸いです。
(レスポンスアビリティ社メールマガジン「サステナブルCSRレター」No.201 (2014/10/30発行)既出)
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