2017/01/05

ニューヨークで田舎暮らし

2011年の同時多発テロ直前にニューヨークに来てから、かれこれ15年。ずっとニューヨーク市内の喧騒の中で暮らしていましたが、昨夏、ニューヨーク郊外に引越し、長年の希望だった田舎暮らしをはじめました。

ニューヨーク郊外といっても色々な地域があるのですが、私が住んでいるのは、市内から電車で1時間半ほどの場所にある、湖の多い田舎町です。徒歩圏内には、湖と森と民家以外何もなく、車がなければ食糧の買い出しにも行けません。よって、歩いている人をほとんど見かけません。冬は雪が多く、町の清掃局が道を除雪するまでどこにも出掛けられません。不便ではありますが、その代わり大自然が楽しめます。





山の上にある家なので、窓から裏山の紅葉や雪景色を楽しめますし、毎日、美しい日の出・日の入りを見ることができます。庭には日々ウサギやリスなど野生の動物たちが訪れます。朝起きたら庭に十羽ほどの七面鳥の群れが戯れていたり、馬サイズのシカが家の前の道を歩いていたりと、毎日が楽しくて仕方ありません。近所の人たちは、自然の中で暮らすことの大変さに不平を漏らしていましたが、都会の暮らしにうんざりしていた私からすると、不便さもまた楽しく、むしろ生活がとても豊かになったと感じています。

都会も田舎もそれぞれに良い面・悪い面がありますが、長くその環境に居過ぎると、きっと有難味が薄れてしまうのでしょう。同じ場所に長く居ることで学べることも多々ありますが、住んでいる環境に不満を感じているのなら、今持っているものを失うことを恐れて我慢して定住を続けるより、移住して新しい環境に身を置いてみると良いのかもしれません。

我が家の周辺は、地域一帯に上下水道が引かれていません。上水は井戸水をポンプで汲み上げ、下水は「セプティック」と呼ばれる地下に埋めてあるタンクに一旦溜め、微生物に生分解させて地中に排水する仕組みです。生分解させるといっても、高性能な管理機能がついているわけではなく、ある程度溜まったら流れるという極めて原始的な仕組みなので、水を使い過ぎると分解されていない汚水が地下に流れてしまいます。この地域には、ニューヨーク市内に水を供給している貯水湖がたくさんありますし、我が家は上水が井戸水なので、排水の質と量に注意しながら生活しています。

近代国家アメリカで、しかも大都市からわずか1時間半の場所に上下水道のない地域があるなんて意外に思われるかもしれませんが、アメリカでは少し田舎に行くとこのような上下水道のない地域が結構あります。セプティックを利用している世帯はアメリカ全体の25%、水道水を利用していない世帯は14%もあります。

上下水道がない家と言うと、寂れた掘っ立て小屋のようなイメージを抱かれることが多いのですが、我が家も周辺の家も極めて普通の家屋です。トイレは普通の水洗ですし、シャワーやお風呂も普通に使え、蛇口から出る水量も水道水と変わりません。



また、我が家は築90年ほどの古い家ですが、それもアメリカでは珍しいことではなく、外観も内装も極めて普通です。アメリカでは、中古車と同様、中古物件市場が非常に活発で、古い家を改装しながら住むのが一般的です。特徴のない建て売りの新築物件より個性のある古い家を好む人も多く、1700~1800年代に建てられた「アンティークハウス」と呼ばれる物件も出回っているほどです。

中古物件市場が盛んなため、建物の価値が下がらず、古い物件でも取り壊されず建物付きで販売されますし、リフォーム産業も盛んなので、買い手もリフォームを見込んで中古物件を購入します。購入前に家の状態を検査する専門業者など関連事業が多々あり、中古物件の売買や居住が社会システムの一部になっています。

築90年の家も、上下水道がない地域も、一般的な先進国社会から見ると普通ではないのかもしれませんが、その状況でも普通の生活ができるよう社会を作りあげてしまうところが、アメリカの底力なのではないかと思います。

日本では、中古物件や中古車の価値が低いですが、移住しやすい環境にするためには、中古物件市場の繁栄が不可欠だと思います。もちろん、シェアリングも良い手段だと思います。

人々が住みたい場所に住み、やりたいことをできるような生きやすい社会を実現するには、色々なこだわりを捨てなければならないのでしょう。新築物件だけでなく、学歴や肩書きなども傍から見れば無意味なこだわりなのでしょうし、それを捨てられれば、自分自身も生きやすくなり、社会全体も変わってくるのでしょう。簡単にはできないからこそ、人生は苦労の連続なのですけれど。

さて、ニューヨーク郊外の田舎暮らし、本当にサステナブルといえるのか、はたまた、著書「サスティナブルシティ ニューヨーク」にあるような都市の暮らしの方がよりサステナブルなのか、実際に住んでみて検証していこうと思います。

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