2013/02/19

魚介類のサステナブル認証から考える現代社会の問題点

先日、マクドナルドが全米で販売するフィレオフィッシュにMSC認証マークを付ける(=認証済の魚を使用する)ことを発表しました(MSC)。

MSCとは、「Marine Stewardship Council」というサステナブルな漁業に関する認証機関のことで、日本では「海のエコラベル」という名前で徐々に普及し始めています。
MSCの認証を得ている魚貝製品には、青い魚のデザインのマークが付けられ、乱獲や違法漁業が行われていないことが証明されています。

このニュースを報じた多くのメディアがマクドナルドの決断を称賛していましたが、私は手放しで喜ぶべきではないような、どこか腑に落ちない感じがしました。
同じように感じた人は多かったと見て、このニュースが出た後に、アメリカの公共ラジオ局NPRがMSCの問題点に関する記事を3回にわたり掲載しています。
記事1記事2記事3

これらの記事では、MSCの設立から現在に至るまでの経緯とその問題点を、次のように記載しています。

1992年、カナダのノバスコシアでタラの個体数激減を理由にタラ漁が禁止されたことから、環境団体のWWFが調査を開始。
その結果、タラだけでなくメカジキやマグロなど世界中で多くの魚が同様の状況に陥っていることが判明。
WWFは、冷凍魚製品の最大メーカーであるユニリーバを説得し、97年に同社の支援によりMSCを設立。
しかし、当初は業業団体やメーカーからサステナブルな漁業に関する理解が得られず、MSCは厳しい経営状況に置かれた。
ところが、2006年にウォルマートと提携したことで状況が一変。
ウォルマートの創業者一族が運営する財団がMSCに多額の寄付をし、団体の財務状況が好転した。
しかし、この時点でウォルマートの需要に足る量の認証済魚介類を確保できなかったため、MSCは基準を緩めることで対処した。
これ以降、ターゲットやコストコなど大手企業がMSC認証済魚介類を購入するようになり、認証の精度が落ちて行った。
たとえば、カナダではメカジキ漁でサメが混獲されるなど、海洋生態系を脅かす行為が行われているにも関わらず、MSC認証が出されている。
また、MSCは設立以来約200の漁業団体を認証している一方、申請拒否したのは10団体程度に過ぎない点、監査に15万ドル以上掛かるケースもあり、漁業団体にとって認証費用が大きな負担になっている点、環境団体はMSCを100%サステナブルと認めていない点などを、この記事では指摘しています。

要するに、ビジネスを監視する役割を担うはずの認証システム自体がビジネスになってしまい、十分な機能を果たしていないということを、これらの記事では言わんとしているのだと思います。

こうした主張は、MSCに限らず、建物や食品など多くの認証システムで言われていることです。
もちろん、認証システムである以上、基準は厳格であるべきですし、違反があってはなりませんが、認証を広めるためには多少の基準緩和は必要ですし、どんな認証システムであれ、100%不正を検挙することは不可能だと思います。
基準が厳格であればあるほど環境や社会への負荷は減りますが、広く普及しなければ効果はありませんから、そのバランスが難しいところです。

この記事から私が感じたのは、認証よりも、ファストフードやディスカウントストアの問題です。
これらの事業は、地球が供給できる以上に資源を浪費し、徒に安い価格で商品を提供していますから、そもそもビジネスモデル自体が持続可能とはいえません。
こうした企業が得ることのできる認証ですから、持続可能性に妥協が生じているのは自明の理です。
しかし、影響力のある大企業が参加しない限り、認証システムの認知度を高めるのは難しい。
つまり、広く普及することが前提である以上、"サステナビリティ"の認証システムが本当の意味でサステナブルになることはあり得ないということです。
もちろん改善は必要ですから、NPRのようにメディアが問題点を指摘するのは良いことですが、問題は認証ではなく、こうした事業が成り立ち得る社会の構造自体にあると思うのです。

ファストフードやディスカウントストアを責めても、問題は解決しません。
彼らは、物が不足していた時代に、より多くの人が十分な物を得られるようにと、安価で大量に販売することを追求してきただけです。
そうした時代が終わったからといって、急にビジネスモデルを変えることはできませんし、既に十分物があるのに、さらに安く大量に物を求める人がいる限り、その構造が変わることはないでしょう。

社会が変わるためには、人々が考えと行動を変える必要があると思うのです。
資源の価値が考えられていない値段や量の製品を販売している企業が、なぜサステナブル認証を得ることができるのか、なぜこうした事業が成り立ち得るのか、それによって失っているものは何なのか、そもそもなぜ認証システムが必要なのか。
私たち自身が考え、判断し、行動してなければならないのだと思います。
もちろん、それを実現するのが難しいから、政府や非営利団体が規制や監視を行うのですが、人々が気付きを得ない限り、本当の意味での良い社会は実現しないと思うのです。

人間が狩猟を行わなくなってから長い年月が経ちますが、魚は今でもその慣行が続いている唯一の食品です。
近年は魚の個体数が減ってきたため、養殖に移行する傾向がありますが、養殖もまた農業と同様にさまざまな問題があります(NYGF)。
できることなら漁猟を続ける方が自然の摂理には沿っているのでしょうが、持続可能な量の魚を獲り、適正な値段で販売する社会にならない限り、既存の漁業が成り立ち得なくなることは明らかです。
漁猟がなくなるのが先か、サステナブルな社会が実現するのが先か、人類の賢明さが試されているのではないかと思います。

0 件のコメント:

コメントを投稿

Related Posts Plugin for WordPress, Blogger...