2014/01/17

企業の透明性

よく行くメキシカン・スローファストフードのチポレ
オフィスの近くに店ができたので行ってみると、店内にこんな貼紙がありました。


「お知らせ:供給不足のため、現在この店では”Conventional(従来の方法)”で飼育された牛のステーキ肉を提供しています。できる限り早く、”Unconventional(従来通りではない方法)”で飼育した牛の肉に戻す予定です。」

”Conventional”は、直訳すると”通常の”や”従来型の”という意味ですが、一般的に”オーガニック”の反意語として使われる用語で、農薬や殺虫剤を使って栽培した野菜などに使われます。

このお知らせでは肉のことを指しているので、


”Conventional”
=成長ホルモンや抗生物質を投与し、狭い檻の中で歩きまわることもできないような状態で飼育

”Unconventional”
=成長ホルモンや抗生物質を投与せず、屋外に出して飼育
=チポレにとっては”Conventional”だが現代社会では”Unconventional”な方法

ということです。

つまり、意訳すると、「今日はチポレの売りである自然飼育の肉を仕入れることができなかったので、ホルモンなどを投与した良くない肉を出していますよ」ということです。

ここに込められたメッセージは、3つあると考えます。

ひとつは、そもそも農薬や殺虫剤や成長ホルモンや抗生物質を使用することが”従来の方法”であるのはおかしいですよね、という皮肉。

もうひとつは、成長ホルモンや抗生物質を使わない牛肉の供給は、これほどまでに少ないんですよ、という訴え。

最後は、企業の透明性。
ここまで徹底して自然飼育の肉を使っているファストフードやレストランなど滅多にないのですから、本来は敢えて知らせる必要もないでしょう。
もちろん、チポレは食材のサステナビリティにこだわっていることを売りにしていますし、ウエブサイトなどではそれを積極的にアピールしていますが、店内ではオーガニックの野菜を使っていることや肉に成長ホルモンや抗生物質を投与していないことは表示していません。
客の多くは単においしいから来ているのであり、そのこだわりを知らない人も少なくないと思います。
にもかかわらず、わざわざ今日の肉には成長ホルモンを使用していますと報告するのは、企業としての透明性を真剣に考えているからでしょう。

チポレは先日、どの食材に遺伝子組み換えが使用されているかをウエブサイト上で公表しました(NYGF)。
遺伝子組み換えの問題についてはヤフーコラムにも詳しく記載しましたが、アメリカでは表示義務がありませんから、公表する必要はないのです。
遺伝子組み換えを嫌う顧客が離れてしまう可能性もあるのに、敢えて公表したのは、今後遺伝子組み換えを排除していくという意思表示であり、透明性を真剣に考えていることのアピールでもあるのだと思います。

日本でもアメリカでも、食品の偽装や不当表示は後を絶ちません。
口では企業の透明性を主張しながら、いかに真実を隠し、消費者を騙して売上を増やすかに執心する経営者は少なくないでしょう。
また、自社の途上国支援活動を綴った立派なCSRレポートを出して社会責任を果たしているふりをしながら、その実、企業イメージ向上しか考えず、環境や人体に良くない製品を作り続けている企業も多いものです。

そんな中、時間をかけてでも少しずつオーガニック野菜や自然飼育の肉の比率を増やし、自社製品の環境・人体への悪影響を排除することに注力し、自社にとって不利になり得るようなことであっても正直に堂々と発表する同社は、真に透明性のある企業といえるのではないかと思います。

日頃の努力さえあれば、店内の貼紙に書いたたった3行のメッセージでこれだけの意思表示ができるのだということ、企業経営者は心に刻むべきではないでしょうか。

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