2011/08/05

ニューヨークで家庭菜園
~コミュニティガーデン(市民農園)と食料自給~


今年5月から、自宅周辺のコミュニティガーデンで区画を借り、自然農法で野菜を育てています。
長い間、市内で野菜を栽培する方法を模索していましたが、ようやくこの5月、1年半前にキャンセル待ちリストに登録したコミュニティガーデンから空きが出たとの連絡を頂きました。
通常は2年程待つそうですので、運が良かったようです。
100スクエアフィート(9.29平方メートル)程度の小さなスペースですが、ニューヨーク市のように地価が高くビルが乱立する場所で、家庭菜園ができる機会は稀少です。

コミュニティガーデンとは、その名の通り市民菜園・農園のことです。
ニューヨーク市内だけで490も存在し(Green Thum NYCのレポート、PDFが開きます)、そのうち市の公園・レクリエーション部の管轄にあるものが290、それ以外は、ランドトラストや個人など所有形態はさまざまです。
市の管轄下にあるガーデンは、有志会員で構成される運営委員会の管理下で運営されており、会員は割り当てられた区画の管理、ガーデン内でのボランティア作業、会員規則の改訂や新規規則の導入などを行う定例会議への参加などが義務付けられています。
基本的に会員の自主運営で成り立っており、市の職員は、定例会議に時折参加しますが運営に参加することはありません。
会員になるための資格は特別なく、応募後、空きが出次第区画が割り当てられる形になります。
割り当てられる区画は、一般的に3x3メートル、6x6メートル程度が多く、一度割り当てられれば、規則に違反しない限り翌年以降も継続利用できます。
利用料は、各区画数十ドル程度のケースが多いようです。
これで、農具やウエブサイト・電話番号維持費などガーデン全体の運営経費を賄っています。
栽培する植物は食用の野菜や果物が奨励されているものの、規則に反しない限り何をどのように栽培するかは会員に任されているので、区画ごとにさまざまな植物がさまざまな方法で栽培されています。
多くのガーデンでは、化学肥料や農薬の使用は禁止されており、市内の65.4%のガーデンではコンポスト(堆肥化)システムが導入されています。



私が属するコミュニティガーデンでも、コンポスト以外の肥料や農薬の使用は禁じているので、みなさん野菜や植物をオーガニック栽培しています。
ただし、種苗はオーガニックでないものを使っている人が多いようです。
アメリカではオーガニックやエアルーム(在来種)の種や苗を専門に扱う企業が多数あり、ネット販売はもちろんのこと、ニューヨーク市内のファーマーズマーケットやナチュラル系スーパーなどでも購入できます。
とはいえ、一般のものに比べて入手するのに多少の労力が必要ですし、値段も高いので(1.5-3倍程度)、なかなか手が出ないのだと思います。
それでも、化学肥料や農薬は使っていないため、土壌は健康的で、土中には多くの虫が棲息し、鳥やリスなどの小動物も訪れ、自然な生態系が成り立っています。



区画の利用法は各人各様で、小屋を建ててボブマーリーの写真を掲げるドレッドの黒人男性、ベンチや小さなソーラーパネル照明を設置してガーデニングを楽しむ白人夫婦、毎朝通って相当の収穫量をあげている英語が話せないヒスパニック夫婦、脚付きプランターで野菜を栽培する車椅子の方々など、本当に色々です。
ニューヨークならではの多様性を見ることができ、なかなか面白いです。

私は雑草を抜かない自然農法を試しているので、雑草に埋もれて作業していると、周辺区画の方から何をしているのかと尋ねられます。
きちんと説明すると多くの方は賞賛・賛同してくれますが、時に懐疑的な目を向ける人もいますし、一度、運営委員会の方から区画を放棄したとみなされ、管理しなければ他の人に渡す旨の通達が来たこともありました。
説明したら、承認し興味を示してくれましたが、管理していないように「見える」ことで通りがかりの人がゴミを投げ入れるなどのデメリットが生じるため、見た目も管理の一要素とのことでした。
関心を示してくださる方がわりと多いようなので、東洋的な無為自然の境地がニューヨークで受け入れられるかわかりませんが、いずれガーデン内で自然農の概念を伝えて行けたらと考えています。
(ニューヨーク州北部では秀明自然農法で農業をされている日本人の方がいらっしゃいます。)

私の自然農法は本などで学んだ自己流で、不耕起、無農薬、無肥料、最低限の除草(抜かずに刈る)、最低限の水遣り、といった気楽なものです。
土壌の質や天候にも拠ると思いますが、自然の力に任せれば、あまり手を掛けなくても自給分の野菜なら栽培できそうだと感じています。
これまで、芽が出ない、誤って芽を刈ってしまった、環境が合わず苗が育たないなど失敗もありましたが、実践から学ぶことは多いです。
現在は、トマト、キュウリ、ナス、バジル、オクラ、シソ、枝豆、インゲン、ジャガイモといった多種の野菜が順調に育ち、収穫しています。
また、昨年利用していた方の種が残っていたのか、ズッキーニやパセリ、レモングラス、にんじんなど、植えてもいないのに勝手に芽生えて成長している野菜も多々あります。
これぞまさしく自然農ですし、雑草を抜かないことの恩恵でもあると思います。

そして、菜園を始めてから、食料自給の必要性と可能性を一層強く感じるようになりました。

人間が生きていくうえで最も必要なものは、水と食料です。
「食」さえあれば、たとえ「衣」や「住」がなくても人は生きていけます。

現在のペースで人口増加・途上国や新興国の生活水準の上昇が続けば、限られた地球資源の中で需要が増加することになりますから、必ず資源が不足します。
生きるために必須の水と食品は、特に重要性が増すはずです。
世界的にはバイオテクノロジーなど科学の力で生産量を増やす方向に向かっていますが(Bloomberg記事など)、人間が自然界のすべてを把握できるわけではありませんから、一時的に生産性が上がったように見えても、いずれは問題が生じることになると思います。
そして、最終的には、自然に近い形での生活が最も持続可能だという結論に至るだろうと思っています。

人間が食糧を確保するための最も自然な形は、動物と同様に狩りをすることですが、現代社会で生活する以上それは不可能なので、どうしても農業に頼らざるを得ません。
農業という自然でない行為を行う以上、生態系に負荷を掛けるのは止むを得ませんが、できる限り自然に近い形に近づけることで自然と人類との共存が可能になると思います。

農薬・化学肥料を大量に使用し、大規模農地で同一品種を大量生産するという人工的な方法は、一見合理的に見えますが、長期的且つ広範な視野で見ればデメリットの方が大きいはずです。
気候の影響を受けやすく、利用後の土壌は衰えます。
配送時には二酸化炭素を排出し、保管時は冷蔵にエネルギーを使用するなど、環境への負荷が高いことは明らかです。
また、途上国でコーヒーやタバコなど食用にならない作物を先進国向けに大量生産することで、自らの食料が得られず飢餓・貧困問題が加速するといった社会問題にも繋がっています。

アメリカでは、このような自然の姿とはかけ離れた大量生産型製品は敬遠されるようになっています。
代わりに、可能な限り消費地に近い場所で生産するローカル製品、農薬や化学肥料を使用しないオーガニック製品の需要が高まる傾向が見られます(Wall Street JournalCompanies and markets)。
また、以前ご紹介しましたが、地域ごとに農家を支え地場の野菜を生産消費するCSAの仕組み(過去の記事)も支持を増やしおり、ニューヨークではキャンセル待ちしないと加入できない状況が続いています。
さらに、コミュニティガーデンの参加希望者が急増していることからも、個人ができる範囲で食料を自給し、不足分をCSAや小売店で補う形へと進化していることが窺えます。
これらは、20世紀型の大量生産から21世紀型の分散生産へ移行していることの表れだと思いますし、こうした動向が世界の商業・マーケティングの中心とされるニューヨークで起こっているのは非常に興味深いことだと思います。

以上、10平方メートルにも満たないほんの小さな「農地」から、さまざまなことを考えてみました。


2 件のコメント:

  1. キューバの都市農法を知り、NYでもできないかなぁと友人に相談したところ、このブログを紹介されました。CSAには昨年ブロンクスでお世話になりました。連れ合いの母から受け継いでいる小さなガーデンで昨年から少し野菜を栽培していますが、どうもうまくいきません。どこにいけば相談にのってくれるところがあるのか悩んでいます。やっぱりコミュニティガーデンのように他の人も一緒になってるところのほうが、心強そうですね。いいなぁ。

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  2. Keukmiさん、コメントありがとうございます。
    基本的には野菜作りは土作りなので、土を育てることから始めたらよいのではないかと思いますが、お母様から受け継いだということは土はもう良い状態なのかもしれないですね。気候や土にあわない野菜を育てていらっしゃるのかもしれません。土地・栽培している野菜・やり方、本当にその場その人それぞれに問題が異なりますよね。コミュニティガーデンは、ただ場所を貸してくれているだけで皆それぞれのやり方でやっているので、教えあったりはあまりしないですが、有毒な雑草など良い情報を得られたりはします。本格的にやりたいのであれば一度農家さんに修行に行かれると良いかもしれないですね。訪問に気軽に応じてくださる農家さんもいらっしゃいますよ。あるいは、ネット上にもたくさん情報は出ているので、うまくいかない状態を検索すれば同じことで悩んでいる方、その解決法はすぐに見つかると思います。私は室内の観葉植物に問題が発生したときはいつもそのように調べて解決していました。がんばってください!

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