2012/04/23

フォーチュン・グリーンカンファレンスのレポート

先週初め、3日間にわたり、フォーチュン社主催のグリーンカンファレンスが開催されました。
同誌がグリーンカンファレンスを開催するのは今年で4回目。
多くの大手企業CEOが参加するハイクラスのカンファレンスです。

ウォルマート、コカコーラ、グーグル、フォード、ジップカー、ストーニーフィールド、UPS、スプリント、シーメンス、GE、リサイクルバンク、カーギル、ダウ、シティグループ、クレジットスイス、マッキンゼーなど企業経営陣、ハーバード、イェール、UCLAなどの大学教授、環境NGOのナショナル・ディフェンス・ファンドやネイチャーコンサーバンシー代表、政治関係者など、多彩な顔ぶれでした。

テーマは、エネルギー、交通、食、企業経営など様々。
「フラッキングがすべてを変えるのか」「グリーンマネーを追え」「21世紀の交通」「電気自動車がマス市場に登場するのはいつか」「サステナビリティの限界を超える」「欠乏の時代のリーダーシップ」「アメリカ人にグリーンを考えさせる方法」「自然の価値とは何か」「メディアがゲームの流れを変えるか」など、さすが雑誌社主催のカンファレンス、タイトル設定が上手いです。


<エネルギー>
注目のトピックは、やはりエネルギー。
多様性が重要であること、石炭・石油からの離脱は言うまでもありませんが、掘削時の環境負荷と価格の安さが注目されている天然ガスの行方、風力や太陽光、太陽熱など再生可能エネルギーの行方などが議論の中心でした。
エネルギー政策の正しい解は未だ誰にもわかりませんが、議論の要点は以下のようなものでした。

・シェールガス開発手法であるハイドロフラッキング(水圧破砕法:NYGF)は、メタン漏れの環境負荷が非常に高く懸念されるが、どれだけ漏れているのか実データが存在しないことが問題。正しく規制さえされれば有用なエネルギーである(先週半ばにEPAが規制制定:EPA)。
・天然ガスの低価格(2ドル/100万BTU)を考えると今が投資チャンスだが、あくまで化石燃料であるので先はないと考えるべき。
・再生可能エネルギーは、今後の税控除政策次第である。
・米国では、天然ガスより安い風力が鍵を握る。
・太陽熱は今後の税控除の復活次第。
・太陽光は難しい。
・CO2排出量削減を重視するなら原発は避けられない。

グーグルのエネルギー・サステナビリティディレクターは、同社の再生エネ投資について、全米全州で再生エネルギー購入の選択権を得られるようにするためであり、他社にも追随して欲しいと訴えましたが、昨年末に「石炭よりも安い再生エネルギーを作る」目標を取り消しただけに、多少鼻白む感はありました。

<消費者>
・消費者は、サステナビリティに力を入れる層(母親・若年層など)とグリーン嫌い(グリーン・ハーシング)とに二分している。
・低所得層は、サステナブルであっても高ければ買わない。
・消費者は、ホッキョクグマなど自分の便益に直結しないことを言われても動かないが、雇用と健康を訴えれば行動に直結する。
・サステナビリティの真の意味を理解すれば、ロイヤルティは高い。
・企業の対策として、透明性を高め本物であり続けること、プロモーターとなる顧客を大切にすることが重要である。
・事業自体がサステナブルでなくても、消費者に気付きを与えることはできる。

グリーンウォッシュと揶揄されることの多い2社、ウォルマートとコカコーラ社は、次のように反論していました。

ウォルマートCMMO(チーフ・マーチャンダイジング・マーケティング・オフィサー):
「今年のCSRレポートを見れば多くの業績を達成していることが分かる。特にローカル(国内生産)商品の販売は成功している。」
05年のリー・スコットCEO(当時)のサステナビリティ提言から逸れつつある理由として、同社の顧客があまりサステナブルな商品を購入しないからとされているが、真相を聞かれると、
「顧客が誤解している。サステナビリティやオーガニックなど本当の意味を理解していない。自社は売りたいが顧客がそれに高い金を買わない。サステナビリティ・インデックスにより消費者に分かりやすく効果を見せることができ、サステナブル商品の提供をすることで顧客にそうした商品を手に取らせる機会を作り出している。」

コカコーラ北米CSO(チーフ・サステナビリティ・オフィサー):
「消費者の疑問や質問を集め、分析して対策を検討しているが、個々の意見や消費者に返事をすることはない。聞く耳を持つ人のみ受け入れる。ホッキョクグマのイメージを活用したマーケティングには、政治的との批判もあるが、気候変動に関する気付きを高め、多額の寄付を集め、消費者同士がメッセージを共有しあい、影響を高めることができた。自社の目的は気付きを生み出すことである。」


<食・農業>
・オーガニックフードビジネスは、コンベンショナルよりコストがかかるが、流通、包装等他の努力で削減可能。
・オーガニックブランドはロイヤルティが高く広告費を掛ける必要がないため、コンベンショナルに比べ、粗利は低いが純益は高い。
・途上国の農業はオーガニックが適している。土壌が育つまでに5-6年掛かるが、それ以降は生産性を上げられる。
・人口増加、生活向上により、今後食品需要が高まることは間違いない。生産性向上とサステナブルな生産が鍵を握る。
・世界中に飢餓に苦しむ人がいるので、食品事業は唯一成長が可能な業界。
・途上国にとっては、安く高カロリーな食品を作ることが重要。
・廃棄される量が多いことが問題。有効利用・分配が必要。

オーガニック乳製品メーカーのストーニーフィールドCEOは、次のように述べています。
「1983年に7頭の牛を飼いオーガニックヨーグルトを作り始めた。当初は需要は少なかったが、供給がなければ需要はないと感じ、タフな時代だったがトライした。」


<自動車>
一方、自動車業界は、電気自動車は未だ需要が少ないので難しいと、二の足を踏んでいる状況。

・電気自動車の成功は、コストとインフラ(充電)次第。
・中国は資源が少なく人口が多いので、プラグインEVが唯一のソリューション。タクシーや配送トラックなどでプラグインEVの導入率が高く、バッテリーが安定すれば高成長が見込める。
・米国は個人所有車中心になるので、中国のようには行かない。

食品と異なり高価なため、簡単に導入するわけにはいかないという事情もありますが、米国内の普及にはもう少し時間がかかりそうです。
そもそも自動車自体の将来性に対する疑問がありますが、数々の厳しい質問に対しフォードCEOは次のように答えています。

車以外の交通手段に移行する予定
「フォードは今後も自動車にフォーカスする。中国やインドなどでは小さな都市でも人口が多く開発途上なので車が必要。人と繋がるため、どこかの場所に行くため、操作性の簡易さ、いずれも自動車のメリットであり、世界的に見れば未だ自動車の可能性は非常に大きいとみている。」

カーシェアリング業界の台頭に対して
「サポートはしているが、あくまでフォードは安い車を作ることが最重要と考えている。」

政府助成金の意義
「アメリカは製造業があってこそ成り立つ。製造業がなければサステナブルとはいえない。アメリカは研究開発に大きな投資をしており、現在は利益を生み出せるようになってきた。雇用も生みだしている。競争優位も改善されている。」

大型車生産
「大型車が好きな人がいるので生産をやめることはできない。トラックや大型車にも最新の技術を搭載している。」


<企業経営>
・サステナビリティの実現に最も必要なのは、環境コストを測定、管理、公表すること。環境コストが分かれば対策が取れる。現在、イギリスとシンガポールの企業から情報提供してもらい、環境コスト算出のツールを作っている。時間がかかるが、実現できれば多くの企業が利用できる。
・小企業も大企業も、多かれ少なかれサステナビリティ対策を行っている。
・CSRはブランド力向上と差別化に有効。
・ウォールストリートが求めているものとの乖離があるが、サステナビリティでも企業経営でも長期的視野が必要であることを訴える。短期利益に執着しないメインストリートの投資家も増えてきた。
・変化に必要なのはCEOの勇気と従業員教育。
・社会的損失(自然の経済的不可視性)を訴えることが必要。
・NGO、NPOとの協業により、サステナビリティに関する大きな効果が期待できる。
・NGO、NPOが企業にプレッシャーを与え、企業戦略を変えることも多い。
・企業の取組も必要だが、政府の規制も非常に重要。


以上、ざっくりとまとめてみましたが、カンファレンス全体として以下のような感想を抱きました。
・多くの企業がサステナビリティ戦略を導入しているものの、真に環境コストを考えている企業はまだあまりないこと
・NGO・NPOと企業の協業に大きな成果が見られること
・消費者の意識改革が急務であること(企業は消費者次第で動くため)
・亀の歩みの速度ではあるが、着実に進歩はしていること
・抜本的な社会改革にはまだ相当の時間がかかりそうであること

社会全体、米ビジネス界全体に大きな変化が訪れる前に、地球環境に大きな変化が起こらないよう願うばかりです。

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