2012/03/17

図書館でキンドル本を借りてみました

昨年末に、ニューヨーク市の図書館でキンドル本の貸し出しが開始されたので、利用してみました。
キンドル以外のフォーマットの電子書籍はそれ以前から貸し出されていたのですが、アマゾンは半年ほど遅れてようやく参入しました。

結論から言うと、タイトル数はまだ少ないですが、貸出手続きは簡単で、読む分にはアマゾンで購入したキンドル本と全く変わりなく、今後も利用したいと思いました。

貸し出し手順は以下の通りです。
1. 図書館で図書館カードを入手(既に持っている人は不要)。
2. カードに記載のIDとパスワードで、図書館のウエブサイトにログイン。
3. サイトで読みたい本のキンドル版を探し、貸し出し希望リスト(買い物かごのようなもの)に入れ、貸出期間を7、14、21日のいずれかを選び、最後にまとめてチェックアウトする(貸出上限は1人12冊)。
4. キンドルストアにログインし、チェックアウトする。
5. 自動的にキンドルにダウンロードされる。
6. 返却期限3日前に、アマゾンからメールで連絡が来る。
7. 返却日に、キンドルから本が自動的に消える(私はWifi端末なので、返却日後Wifiに繋げた時に消えました)。
(ニューヨーク市のウエブサイトで手順を詳しく説明しています。NY Public Library)

利点:
・無料。
・貸出・返却のために図書館に行く必要がない。
・手続きが簡単。
・読む分には、購入した本と何ら変わりない。
・期限日前に返したい場合は、アマゾンのサイトから返却可能。

難点:
・タイトル数が少ない。
・貸出中のことが多い。
・図書館のサイトがブラウズしにくい。
・図書館での貸出手続きの後、キンドルストアでも手続きしなければならない。

便利な分、人気の本はほとんどが貸出中なので、返却を待たなくてはなりません。
但し、ウェイティングリストに入れておけば返却次第連絡が来ます。
連絡後3日間は取り置きできるので、その間に貸出手続きをすれば借りられます。

電子書籍の貸し出しに関しては、多くの議論があります。
本をたくさん購入する余裕のない人もいますし、教育的視点からも、図書館貸出は必要でしょう。
しかし、紙の本は、貸出・返却のために図書館に行かなければならない煩雑さが制約となり書店と共存できていましたが、電子書籍ではその手間がないため、購入機会を奪う可能性があるかもしれません。
電子書籍の貸出はまだ十分普及していませんが、今後タイトル数や取扱冊数が増えれば、購入より借りることを選ぶ人が増えると考えられます。
出版社側はこれを懸念し、図書館への販売額を通常よりもかなり高額に設定したり、図書館への貸出を行わない、貸出上限数を定めるなどの措置を行っています(NYTimes)。

アマゾンは、2010年末からキンドル本所有者間での貸し借りを認め、サービスを提供しています。
但し、同社はこの事業に積極的に取り組んでいるわけではなく、競合のバーンズ&ノーブル端末ヌックが同様のサービスを開始したため、追随したに過ぎません。
このサービスは、キンドル本の所有者が14日間限定で貸し出しできるというものです。
貸し出し中は貸した側はその本を読むことはできず、1冊の本につき1回しか貸し出せないという制約があります。
また、このサービスを許可していない出版社の本は貸し借りできません。
貸し借りにはメールアドレスが必要であるため、友人間での取引が想定されていますが、昨年春頃からbooklending.comなど貸し借りマッチングサイトが登場し、互いに知らない借主と貸主を繋げる事業が始まっています。

また、アマゾンは昨年11月から、プライム会員向けのキンドル本貸出サービス(Kindle Owners' Lending Library)も開始しています(Amazon)。
プライム会員になるには79ドルの年会費が必要ですが、会員になるとアマゾンで購入した商品の送料が無料になるほか、映画やテレビ番組を無料でストリーミングでき、月に1冊無料・無期限で本を借りられます。
同社はこちらのサービスにはかなり力を入れており、サービス開始時は貸出対象は5,000タイトルのみでしたが、今年2月末に10万タイトルに増やしたことを発表しています。
但し、一般書籍よりも、同社出版サービスKDP(Kindle Direct Publishing)から自主出版した本に力を入れています。
同社は、昨年末にKDPの自主出版作品のための基金「KDPセレクト」を設立し、貸し出される度に基金から著者に支払われる仕組みを確立しました。
参加を希望する著者はアマゾンでの独占販売を許可しなければならないなど制約はありますが、有名でない著者にとっては良いサービスといえるのではないでしょうか。
出版社側は当初反意を示していたようですが、発表された10万タイトルの中には大手出版社のベストセラー本も多く含まれているので、折り合いがついたのでしょう。

音楽業界では、アップルiTunesの出現により違法貸し借りする必要がないほど音楽価格が安くなりましたが、書籍業界は今後どのような展開になるのでしょうか。

日本では、未だに紙か電子かの議論が行われているようですが、アメリカでは既に電子書籍は一般的です。
ニューヨークでは、電車で電子書籍を読んでいる人を非常に多く見かけます。
端末は、バーンズ&ノーブルのnook、ソニーのリーダー、iPadなども見かけますが、やはりキンドルが多いように思います。
ピューリサーチセンターの調査によると、2012年1月時点でタブレット端末とブックリーダーの所有率は共に19%とされていますが、電車で見かけるのはブックリーダーの方が圧倒的に多いです。
タブレットは、持ち歩きや電車内での片手持ちには重いからでしょう。

私は、キンドルを使い始めて1年以上になりますが、持ち運びが楽で保管場所を取らないため、英語の本はほぼキンドルでしか読まなくなりました。
日本語の本こそ、アメリカでは入手し難いので電子書籍で読みたいのですが、電子化されているタイトル数が少なすぎるため、残念ながら不可能です。

電子書籍と紙の書籍の環境負荷比較はこちらに記しましたが(NYGreenFashion)、端末では本だけでなくPDF資料を読めますし、ITマニアでもない限り頻繁に端末を買い換えることもないと思うので、分岐点である100冊は優に超えられると思います。
紙の本がなくなることはないと思いますが、アメリカの状況を見ても電子書籍が普及することは明らかですから、紙か電子かを議論する段階はもう終わったと言ってよいと思います。

本は、単なる「製品」ではなく、重要な教育ツールです(そうでない本もありますが)。
企業の収益・既得権益争いに巻き込まれ、読みたい人が読めなかったり、著者に十分な収益が入らない状況にならないよう、配慮が期待されます。
アメリカでは教師の給与の低さなども問題になっていますが、教育は人類の未来にとって重要ですから、ビジネスや政争による搾取が起こらない仕組みが必要でしょう。

ちなみに、図書館で借りた電子書籍は、友人から薦められた「Three cups of tea」です(日本語版は、「ここに学校をつくろう!」)。
パキスタンやアフガニスタンなどに学校を作る活動を行う、勇気ある人物グレッグ・モーテンソンさんの話です。
とても良い本でしたので、ご興味ありましたら読んでみて下さい。

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