2012/03/20

新リアリティTV「ファッションスター」から学ぶこと

サステナビリティとはあまり関係ないのですが、ビジネス的に興味深い事柄がありましたので、ご紹介したいと思います。

先週から始まった、サックス、メイシーズ、H&Mの3社がコラボする、NBC局の新ファッションリアリティTV「ファッションスター」。

デザイナー発掘番組という点では先駆けの「プロジェクトランウェイ」と似ていますが、ショー的要素が強い点で「アメリカンアイドル」などと類似、より深くビジネスが絡んでいる点でテレビショッピングと似ています。

番組では、全米各地から集まった14人の無名デザイナーが毎週服をデザインし、ダンサー達が踊る華やかなランウェイでプロのモデルによりファッションショー形式で見せ、3社のバイヤーが欲しいアイテムを入札します。
落札された商品は、番組終了直後から各店のウエブサイトで、翌日から店頭で販売されます。

落札されたデザイナーは翌週以降も番組に参加でき、誰からも入札されなかったデザイナーのうち毎週1名が失格となります。
最後まで勝ち抜いた1名のデザイナーは、600万ドル分の賞金(受注)を獲得し、3社用にカプセルコレクションをデザインします。


初回放送時は、サックス1、メイシーズ3、H&M2の計6名のデザイナーの商品が各5~8万ドルで入札され、実際にその後各社サイトと店頭で商品が販売されています。
サックスはサイトと全店舗で、メイシーズはニューヨークの旗艦店とサイトのみで、H&Mはサイトと米国内101店舗で販売。
放送2日後には、各社サイト上ではほとんどのアイテムが売り切れになっています。

放送直後から販売できるのは、番組収録が昨夏だからです。
放送日までの半年間に、各社が各々の価格帯に合った商品を生産し、サイト用のビデオ撮影や店頭への配送・イベントなどの準備を行います(WWD)。

各社が自社価格帯に合わせて生産するため、販売価格は大きく異なります。
サックスが落札したスカートは350ドル、メイシーズのミニドレスが110ドル、リゾートドレスが89ドル、チュニックが79ドル、H&Mのメンズジャケットが49.95ドル、ミニドレスが19.95ドル。
サックスのスカートは、ファスナーが多く2ウェイで着られる凝ったデザインでポリエステル製、H&Mのジャケットは、ボディはリネン混繊維、肘のパッチはフェイクスエード製です。

あるブランドの作品が、今週はH&M、来週はサックスと、全く異なるタイプの小売店で、全く異なる品質と値段で販売される可能性があります。
こうした現象は、ハイエンドブランドの商品をサックスが、そのセカンドラインをメイシーズが、期間限定コラボコレクションをH&Mが販売するというように、現実のビジネスでも起こっていることですが、まだブランド価値が確立していないうちにこのような試みが行われるのはなかなか面白いことだと思います。
これまでブランドの価値は価格に反映されていましたが、価値と価格の関係が崩れ、ユビキタスになったこの証でしょう。

3社にとっては、商品売上よりもマーケティング効果に対する期待の方が強いようです。

サックスCEOのサドーヴ氏は、当初はマス小売と共に参加することでブランドイメージを下げる可能性があるとして社内の反対があったが、マーケティングとしては安く、より広い顧客層にアピールできるため参加を決めたと語っています(WSJ)。

Retail Customer Experienceによると、ゴールデンタイムのテレビCMの相場は20万ドル(RCE)。
落札額以外の支払もあるのでしょうが、8万ドルで落札しても広告としては破格値といえます。

H&Mコミュニケーションマネジャーのニコール・クリスティー氏は、実際のコストは公表できないが、番組参加料は支払っていない(有料広告ではない)旨、落札は嘘ではなく実際にお金が動いている旨を述べています(RCE)。

番組構成は、他のデザイナー発掘番組と比べて、デザイナーのバックグラウンドやデザイン過程などのストーリー紹介が少なく、過度にエンタテイメント化されたファッションショーと3社の入札場面が主体となっており、優勝賞金も600万ドルと高額で、とにかく派手です。
3社バイヤー以外に、司会に元モデルで自身のランジェリーブランドを持つエル・マクファーソンン、メンターとして、デザイナーのジョン・バルバトス、歌手&自身のブランドを持つジェシカ・シンプソン、同じく自身のブランドを持つおしゃれセレブ、ニコール・リッチーと、多くの有名人が出演しています。
明らかに商品売上と視聴率狙いであることが見て取れる番組で、無名デザイナーをサポートしようという意思は希薄に感じられます。

一部メディアからは、インフォマーシャルだ、プロジェクトランウェイの真似だと、酷評もあるようです(FOXCNN)。

初回の視聴者数は460万人。
この時間帯の視聴率としてはあまり良いとはいえないようですが、まだ初回ですから今後どうなるかはわかりません。

番組構成は持続可能性とはかけ離れていますが、小売企業のマーケティング手法としては斬新なアイディアだと思います。
番組内の商品が小売店で販売されたことは過去にもありますが、このような形でテレビ・小売間の連携が行われたのは新しく、放送後数日で売り切れが続出していることから、今後このようなテレビショッピング的リアリティTV番組が増える可能性はあると思います。

サステナビリティの実践はとかく地味な作業になりがちですが、このようなアイディアを活用し、より広範なターゲットにリーチし気付きや行動を促すことも可能だと思います。
サステナブルビジネスは、ストーリーを伝えることが重要な要素であり、それを行動に繋げることに意味がありますから、このような手法は意外と適しているのかもしれません。
久しぶりに20世紀バブル的なテレビ番組を見て食傷気味ではありますが、学び得るところはありました。
アンテナを広げることは重要ですね。

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