2011/07/10

ニューヨークから80km圏内の原発、廃止へ

ニューヨーク・マンハッタンの中心部から80km圏内に、インディアン・ポイントという原子力発電所があります。
先週、ニューヨーク州知事アンドリュー・クォモ氏の側近が、同原発の所有者であるエンタージー社と非公式に会談し、施設の閉鎖を伝えたと報じられました。(NYTimes)

この原発は、巨大都市ニューヨークから至近というだけでなく、さまざまな点で安全性が懸念されていました。

ひとつは、地震の影響です。
ニューヨークを含め、アメリカ北東部は地震がほとんど起こらない地域です。
マグニチュード5レベルの地震は100年に一度、6レベルは670年に一度、7以上は3,400年に一度の頻度で発生するとされています。
そのため、ニューヨーク・マンハッタンには築50-100年以上の古いビルが多く、ほとんどは耐震構造が採用されていません。
もし地震が起これば、マンハッタンは壊滅的な被害を受けると考えられます。
ところが、マグニチュード5以上の地震が最後に起こったのは、1884年。すでに100年以上が経過しているので、実はいつ地震が起こってもおかしくない状況なのです。
さらに、2008年に、コロンビア大学の研究者がインディアン・ポイントの北数kmの場所で2つの活断層が交わっていることを指摘し、地震が起これば甚大な原発被害に発展すると発表しました(NY Times)。

また、インディアン・ポイントは1970年代に建設された古い原発のため老朽化が進み、使用済み燃料プールの水漏れ、ハドソン川への汚染水流出、建屋内の爆発など、近年事故が頻発しています。
燃料プールの水漏れは、2010年に米原子力規制委員会の調査により発見されたものですが、少なくとも1993年以降漏れ続けていたとされています。


そして、半径80km内には、ニューヨーク市の人口約800万人の大半を含め1,720万人の住人がいます(MSNBC)。
福島の原発事故では、アメリカは在日米国人に対し80km圏内を立ち入り禁止としましたが、インディアン・ポイントで同様の災害が起こっても、それだけの人数を非難させることは不可能と考えられます。

テロの危険性もあります。
ニューヨークはテロの標的になりやすい場所です。
インディアン・ポイントでは911以降テロ対策を強化してはいますが、十分とは言えません。
2008年以降は、使用済燃料の処理にテロ攻撃に耐え得るとされるドライキャストを採用してはいますが、未だプールも併用しているため完璧とは言えません。

これらの条件を鑑みると閉鎖は当然のことのように思えますが、多くの原発と同様、代替エネルギー確保が問題となっています。
同原発では、1970年代に閉鎖した1号機を除く、2号機と3号機が現在稼動しており、発電量は2基で2,000メガワット強に上り、ニューヨーク市とウエストチェスター郡の電力の25%を賄っています。
閉鎖すれば、これを補うために、新たに発電施設を作るか、電力が余っている既存発電所から送電線を引くことになりますが、クォモ知事はニュージャージーの発電所から送電線を引く案を検討しているようです。
ただし、ニューヨーク市長のブルームバーグ氏は、送電線整備は1年や2年で実現できるようなものではなく、安易な閉鎖はニューヨーク市内の停電に繋がると警告しています。

とはいえ、ニューヨークでは小規模の停電は地域毎に時折起こっていますし、2003年には北東部一帯を含む大停電が起こっています。
当時のニューヨーク州の経済損失は10-30億ドルとされていますが(Electricity Consumers Resource CouncilAnderson Economic Group)、原発による被害を考えれば耐えるべき損失のように思います。

インディアン・ポイントの2、3号基は各々2013年、2015年にライセンスが切れます。
エンタージー社はさらに20年の再契約を締結しようと試みていましたが、クォモ氏側近の発言が公式なものとなれば、ニューヨーク州は更新を拒否することになります。
既に昨年、州の環境保護局が同社のハドソン川からの取水許可更新申請を拒否する決断を下しており、実質的に同原発の存続は困難と見られていました。
エンタージー側はこの結論を不服としていましたが、今回の会談で閉鎖勧告という形になったのだと思います。

クォモ氏は脱原発論者ではありませんが、インディアン・ポイントの危険性を憂慮し、ニューヨーク州司法長官時代(2007-2010年)から同所の閉鎖を訴えていました。
今年知事に就任してから、福島原発事故の1週間後には強い口調での閉鎖を主張、そして今回の非公式な会談に至りました。
同氏の意見に対して世論でははもちろん賛否両論ありますが、私は英断だと思います。
福島の事故がもし東京近郊で起こっていたらと考えれば、その危険性は明らかですし、多少の時間はかかっても代替案はあるわけですから、閉鎖に向かって進むのは至極妥当だと思います。
日本でも今後の原発処理に関してさまざまな議論が起こっていますが、代替案を巡っていつまでも答えの出ない議論を続けているよりは、クォモ氏やドイツのようにまずは危機回避を最重要と捉えて閉鎖を結論付けるべきであり、具体的な移行計画はそれからで十分だと思います。
方向性が定まらなければ計画を立てることもできませんから、段階的であっても長期的であっても、まずは廃止を明言すべきだと思います。
脱原発の現実性に懐疑的な向きも多いようですが、代替案が全くないわけではないのですから、何を妥協するかということの議論なのだと思います。
このような事態が起こってしまった日本では、経済性や政治的なしがらみよりも、人々の安全性を優先すべきだと私は思います。

時期首相候補と目される前原氏が、脱原発をフィナンシャル・タイムズ紙で表明していましたが(FT.com)、日本の政治家は簡単に意見が二転三転するので、真意の程は分かりません。

ちなみに、我が家は、風力・水力発電のみを使用するよう電力会社と契約しています。
各家庭の考え方により電力を選べる仕組みが、日本でも早く実現されることを願っています。


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